やなぎょん 政治経済を勉強中!

最近は「政府の財源」について勉強しています.勉強不足・間違いがあるかもしれませんが,あくまで備忘録として公開していきます.経済のエキスパートの方からは,是非優しいアドバイスをお願いします.

5.結局,MMTとは何だ?(前半:批判的意見から)

 これまでの議論(特に記事3)より,各国政府は遅かれ早かれ国債は乱造される宿命であったとわかった.悪意(政治家の癒着)よりも,原理的に仕方がなかったという側面が強い.

 

では我々はこのまま,借金まみれになって財政破綻するしかないのか?あるいは記事4のようにプライマリーバランスを守って,少子化が進行して,ゆっくりと滅んでいくしかないのだろうか?

 

答えはもちろん「NO(持続的な社会を実現できる)」である.しかもなんと,外需に依存して外からお金を取ってくる必要は「ない」.戦争による特需も「不要である」.しかし,そんな夢のような話は本当だろうか.

 

まずは主流派の言説に則って(?),MMTに批判的な側面から見ていこう.

 

信用創造の原理から,あくまで「国民&政府の信用創造による預金の創出がまず先に生じ,その後に政府による徴税行為が可能になる」ことも分かるだろう.政府は財源の根拠として,最初に国民から徴税しておく必要はない.また,国債がどんなに増大しようとも,「国民の借金額=国民の貯金額」が成り立つので,民間預金残高不足を理由に国債発行量が天井を打ってしまう可能性はゼロである.故に,MMT批判者に見られる,以下のタイプの言説は明らかな誤りである.

 

MMT批判タイプ1】『国債を発行しすぎると,民間銀行の資金が不足する』

国債大量発行で国内民間銀行が資金不足になり,民間が国債を買う力を失い,国債の需要が暴落することで国債の価格が不相応に低下し,それにより利回りが急上昇して,結果金利が急上昇するようなシナリオ」

これは,国民の借金が増える=国民の預金が減るという,全く短絡的な誤解に基づく言説である[1].民間銀行は日銀当座預金を使って国債を購入しているため,国債を購入するための資金が不足する事はありえない[1].つまり,民間部門の預金を原資に国債を購入しているわけではない.なお,国債が発行され公共事業が民間企業に発注されれば,政府の日銀当座預金が民間銀行の日銀当座預金に振り返られ,その分だけ民間企業の預金額が増えるので,政府の借金=民間の黒字になる.故に,トータルで見ればやはり資金不足はない.

[1] 中野剛志「奇跡の経済教室 基礎編」p126で中野氏は清滝信宏教授を批判しているが,まさに清滝氏が上記の間違った言説を流布している.

 

もっと踏み込んで言えば,「政府の信用創造国債発行)」は「民間の信用創造」からは何の拘束も受けない.まず政府の信用創造によって市中(公共事業発注→民間企業→労働者)にお金が流れ,大体の物価が決定されることで,その後に民間の信用創造がバランスを取るために決定される.例え民間の信用創造が0円であったときでさえ,政府は「国民から借金して」公共事業を行うことができる(民間は政府を縛らない).

 

銀行は信用創造をする人物・団体の信用度合いを評価するのが本質的な仕事である.実際に借り手が融資を申し出たとき,借り手の申請額が客観的に見て返せそうな額に収まっているときに,銀行が申請者の銀行口座に数字を書き込み,債権を受け付けるのである[2,3].だから,「国債が発行されるときは国民の銀行預金残口座から政府の口座にお金を持ってくる」というイメージ自体が強く否定されるのである.現代のお金(現代貨幣)は対応物(実体)を持たない,のである.実体があったのは金本位制の時代までの話である.

[2] このときの審査基準を歪めてしまうと,例えばサブプライムローンのような事態になる.

[3] 人の信用には限りがあるが,政府の信用は無限大である.

 

MMT批判タイプ2】『国債を発行しすぎると,信用不安に陥る』 

また別の勘違いのケースとして,例えば池上彰氏などが時々示すような国債を大量発行すると海外で信用不安が起きて価格が暴落する」というシナリオも,一般の国家ならばありえなくもないが,特に日本国債の場合に限っては全く当てはまらない.日本の場合に限って言えば,正しくは,自国通貨建てであるため「国債の返済期限が来たら,新しい国債信用創造によって発行して借り換えをする(つまり,通貨発行権がある)」ゆえに,絶対に債務不履行にはならない[4,5].このときも,民間の購入能力(銀行の預金)と国債発行額が完全に釣り合って国債の需要が暴落しないでいる事が,隠れた安全弁である.確かに国債は国民の借金であるという側面はあるが[6],どれほど借金しても国は破綻しないし,信用不安自体も起きない.海外の賢い投資家は間違いなく信用不安が起きないことを知っていて,リスクヘッジ先として日本国債を利用してくれているのである.

 

[4] 中野剛志「奇跡の経済教室 基礎編」p145における著者の主流派経済学者への批判

[5] 国債に対する返済資金を信用創造で作り出すことのできない「他国通貨立て」でやり取りしてしまうとデフォルトの可能性が残る.債権国の通貨をかき集める事に失敗する場合があるからである.アルゼンチンはこの理由でデフォルトしている.自国通貨建ての場合は,単に日本円を作るだけなので,いつもどおり好きな額だけ信用創造すればよいのである.

[6] 国債が増えていくと,国債の利回りが大きくなる可能性があるので,国債を買える側の富裕層と国債を買えない(借金を返す側の)貧困層の格差は広がる.この点はれいわ新選組の大西つねき氏などが問題提起しており,解決策も示されている

 

MMT批判タイプ3】『国債を発行しすぎると,高インフレになって困る』

財政赤字を拡大すれば,必ずインフレが起こる」ここまではMMTも否定していないが[7],「インフレが制御できないからMMTに基づく政策は非現実的だ」と続く批判である.これは[8]で中野剛志氏が痛烈に批判している.また,インフレが制御できることを前提に「アベノミクス」が行われており,インフレが制御可能であることは財務省も暗に認めている

 

[7] それどころか,それを使ってインフレターゲットをやろうとしているのだが…

[8] https://toyokeizai.net/articles/-/283186  特に2ページ目の下部以降

 

また,この「インフレは金融政策や財政政策で制御可能である」という財務省の意見と真っ向から対立する意見が米山隆一氏(弁護士,医学博士)や日銀の原田泰氏の意見である.

 

米山氏は「インフレ退治のために予算を毎年大幅に変えると世の中が混乱する(←そりゃそうだ)」と言っていて,中野氏の「高インフレ時以外は,毎年の予算を大幅に変える必要はまったくなく,前年通り推移させれば大丈夫」という意見と相反する. 

この両者の意見の食い違いについては新しい記事を用意した

実際,米山氏の意見はかなり不自然というか,無理があると言わざるを得ない(おそらく,税金を財源とするために自由に税率を変えられない,とでも思っているのだろう).後にインフレターゲットの所で述べるが,インフレ加速度の指標は「失業率」であり[9],これが極端な値まで下がってこないうちは,極端なインフレ加速は起こらないと理論的に考えられている[9,10]. 

 

原田氏も財政政策でインフレをコントロールするのは難しい,という論調だが,日本は短い期間に消費増税を2度も行った国なので,インフレターゲットを変に高く(失業率ターゲットを極端に低く)しなければ,まず間違いなくインフレコントロールは成立すると言えるだろう[11].更に中野氏に言わせれば,所得税」が自動安定装置(ビルトインスタビライザー)として消費需要安定化に奏功するということだ.

 

[9] いわゆるフィリップス曲線.横軸が失業率で縦軸が賃金上昇率(インフレ率)であるが,y=1/xのような形をした,滑らかな曲線である.だから,少なくとも平時においては,インフレ率が爆発するなどありえない.

[10] https://diamond.jp/articles/-/160837?page=3

リンクの次のページで高橋洋一教授は「日本でも国会は、日銀総裁らに『日本のNAIRU(=インフレが加速しない,安全な失業率)はどの程度なのか』と質問したらいいだろう。これが答えられないようでは、中央銀行マンとして失格ということだ。」と述べており,NAIRU(安全な失業率)でインフレターゲットを実行するのは,経済学者にとっては一般的な事のようである.

[11] そもそも日銀の人間が現政権の政策実行の前提としている事実を否定してはだめだと思われる.日銀財務省政府は近い組織なので,ほとんど自己矛盾である.藤巻健史氏(経済評論家,元国会議員)も原田氏と同様の意見のようで,三橋貴明氏が批判している

 

歴史的には,少なくとも金本位制が名目化していたと考えられる第二次世界大戦以降は安定(内因性)インフレと,突発的(外因性)インフレの両方を経験しているが,オイルショックですら金融引き締めで対応できている事を思い出すと,インフレ・ターゲット自体が無理という言説は歴史をあまり省みていない事になる.

 

それでも,感覚的にインフレに対する恐怖が拭えない人は,おそらく『商品貨幣論』の考え方に染まりきっているのであろう(それ自体は全く正常である,なぜなら主流派学者がそう教えるから).そこで,商品貨幣と信用貨幣の違いを解説したページを作ったので,まだ納得できない人は先に読んでいただいても良い.

 

さらに亜種として,「国民がインフレ時に増税に同意しないからMMTは危険」という人も居る.そういう批判はもはや経済学的な批判ではないので,別ページを作った.ただこの手の批判者は,根本的に民主主義の実現可能性を否定しているので,はっきり言って読む価値は無い(その別ページのほうも,長いことともあり特に読まなくて良い).

 

もっと踏み込んだ私の意見を述べると,何らかの不測の事態でインフレが予想以上に加速したら「消費税」を増税してしまえば,一瞬で消費は冷え込んで,すぐデフレになる.国家予算を細かく調整する必要はまったくない.もちろん会ったことは無いが,おそらく藤井聡教授も同様の意見をお持ちだと思われる.

 

 

後半に続く.