やなぎょん 政治経済を勉強中!

最近は「政府の財源」について勉強しています.勉強不足・間違いがあるかもしれませんが,あくまで備忘録として公開していきます.経済のエキスパートの方からは,是非優しいアドバイスをお願いします.

4.プライマリーバランス戦法は「大失敗」だった

これまで長きに渡り,財務省は「プライマリーバランスの達成」に命がけで取り組んでいる.彼らの努力は尊いものであるが,しかしながら,これが成功し続けると遅かれ早かれ国は滅ぶ.なぜ財務省プライマリーバランスに命をかけるのかの根拠は【補足2】で述べることとし,まずは本旨を進めよう.

 

信用創造の原理を思い出そう.経済発展期は民間貸出の増分は小さいので,プライマリーバランスを達成するための十分な税収を集めてしまうと,財政政策でばらまいたお金が日銀当座預金に回収されてしまい,市中のお金(マネーストック)は増えない.そうすると,需要が冷え込んでビジネスチャンスが狭まってしまい,民間企業は利子を返せる算段が付かなくなるので,融資を控える.よって,銀行の貸出額も徐々に減っていき(=返済だけが続き[1]),市中のお金はますます減っていく.その結果,なけなしの貧弱な需要の激しい奪い合いになり各社値引き合戦になる(デフレ・スパイラル).これを改善するためには,財政出動国債発行による公共事業[2])をするしかない.

 

[1] 教科書的な「デフレは時間とともに貨幣価値が物価に対し相対的に上昇するから,貯金が得策になるので借金する人は減る」という説明でも結果は同様である.

[2] 公共事業の費用は最終的に賃金として民間人の手に渡るので(この記事),民間企業の生産性が上がらなくとも,市中のマネーを国策的に増やすことができる.

 

裏を返せば,デフレになりそうなときは財政出動財政支出を増やす事)をしっかりやれば,経済は安定的に成長する.以下のリンクの図を見てほしい.

http://msw316.jpn.org/11blog/blog.html

この図は,各国の詳細な事情には大きくは依存せず,一般的にGDPを成長させる原動力が政府の財政支出であること(因果関係[2])を明確に示している.要するに安倍政権は,

「うちは他国に比べ軍資金は渡さないが,何を差し置いても他の国よりも結果(GDP)を出せ!」

と国民を恫喝してくる,反社会組織も真っ青な態度を暗に取っているとも言える(悪意はないのだろうが…).そのしわ寄せが,末端企業のパワハラサービス残業,雇い止め等につながっていると思われる.これは安倍政権だけでなく,小泉政権民主党政権でも同様の目標を掲げていた(コストカット&経済成長).だが需給バランスの関係から,コストカットと経済成長の両立は成熟国家(デフレ国家)では無理筋である.もちろん無駄な公共事業を国民が嫌がるのはよく分かるのだが,コストカット自体が「(市中マネーを減らす意味での)インフレ対策」であり,デフレを強く促進する効果がある.

 

だから日本国民は「無駄遣いは悪い」とは思いつつも「デフレそのものはもっと悪い」という認識を持ったほうが,確実に経済は前進し,幸福度が上がると言える.私はこの国民の認識間違い及びそれに基づく政治的失敗が少子化加速の最大の原因であると考えている.また,日本の大手メディアがその認識間違いを助長,醸成するのに一役買っている事も,とても残念なことである.

 

[2] リンク先の図が単なる相関関係にしか見えない人(因果関係に見えない人)は,もう一度この記事を読み,市中のお金の量とビジネスチャンス,民間企業収益と雇用,そして個人収入と個人消費の関係についての考察をじっくりしてほしい.ざっくりと言うと,政府が支出する→公務員や公共事業発注先の個人が儲ける→彼らから民間企業が儲けられる→民間企業の雇用&労働者の個人収入増える→GDPが増える,である.成熟社会(デフレ経済)では,一般的にイメージされるような「民間企業がどんどん需要を開拓し,雇用を創出して個人収入を増やし,GDPを伸ばす」というモデルはマクロな金の動きとしては非現実的である[3].要するに,個人のお金が無いからみんなモノを買わない,誰も買わないから誰も売らなくなって雇用もなくなるのでしょ,と訴えたい.どんなに魅力的な商品があっても,お金がなかったら誰も買わないでしょ[4].

[3] もちろんミクロに見れば,お金持ちの需要を換気するような画期的なビジネスが創出されることもあるだろう.だがマクロに見た場合,今の日本ではそれは実現していないと言える.

[4] もちろん,貧富の格差が小さくなれば市中マネーの「合計値」が少なくとも,ビジネスチャンスは生まれる.低所得層の方が年収に対して必要な支出が大きいからである.高所得者は余ったお金は決して無駄遣いせず,貯金(あるいは投資.だが投資は不労所得によって,格差拡大を進めてしまう)に回している.格差是正の結果として民間企業は儲ける事ができ,公共事業(政府による市中への資金注入)は減らせるが,これがまさにデフレ対応政策(インフレ加速政策)なのである.

 

【補足1】

グラフを見る限り,中国政府は既にこのGDPを成長させる方法に気づいている可能性がある.だから,右派の「中国脅威論」の文脈からも,日本も早く拡張財政を行って経済発展を再開し,軍備を進めよ,という意見も出てくる(それ以前に安保法制の再整備が必要だが).もちろん左派は拡張財政があれば無敵になれる(福祉に金を使えばそのまま選挙の票に繋がるため).中国はもともと貧富の格差が大きかったり共産主義が長く続いて生産性が低かったために,インフレが加速する要素が少なかったため,拡張財政を強力に行っても極端なインフレにならず,経済が上手く発展しているのだろう.

 

【補足2】

財務省プライマリーバランスを維持する理由には諸説あるが,大きく分けて

 

(1) 財務省天下り先という利権を手放したくないので,増税をして予算を巨大にしたいが,その方便としてプライマリーバランス論が都合が良い [s1,s2].

(2) 旧大蔵省時代に,インフレ対策が大きな責務だったから,その名残で[s3].

(3) アメリカのエリートから流れてくる新自由主義の思想に,日本のエリート官僚が染まってしまったから[s3].

 

という説がある.(1)はまさに「腐敗権力」という言説だが,(2)(3)は単に政策基準がインフレ期のまま硬直化してしまっただけとも言えよう.故に,正しい理論を理解した人が彼らにアプローチしていくしかない.(3)は財務官僚のエリート意識の問題もあるので,これについては国民が本当に怒るべきである.

 

[s1] 高橋洋一教授「安倍政権『徹底査定』」

[s2] 元国税官大村大二郎氏「消費税という巨大権益」

[s3] 中野剛志「奇跡の経済教室【戦略編】」の第9章