やなぎょん 政治経済を勉強中!

最近は「政府の財源」について勉強しています.勉強不足・間違いがあるかもしれませんが,あくまで備忘録として公開していきます.経済のエキスパートの方からは,是非優しいアドバイスをお願いします.

13.現金の大量発生とインフレの懸念

以前の記事で述べた様に,MMTの批判的な言説は大きく分けて

  1. 国債の大量発行に基づく民間の買い手の資金不足
  2. 国債が大量に存在する事による信用不安
  3. 国債・貨幣の大量発行によってインフレ・ターゲットが難しくなる

がある.1は信用創造に対する極めて単純な誤解なので論外であり,2は自国通貨建て国債(無限に借り換えができるもの)については全く問題ない池上氏らの報道は日本国債には当てはまらない).3.の亜種として,MMTは理論的にはインフレターゲットが可能であるものの,国民が愚かなので議会制民主主義で安定的にインフレターゲットを実行するのは無理だろう,という言説もあるが,それは愚にもつかない主張なので見る価値は無い.

 

ここでは3.について,以前の記事を再度まとめる.まず,インフレターゲットそのものの実現性については日銀は暗に認めている.なぜなら実際に政府の政策パッケージに入っているからである.何度も言うが,インフレターゲットは失業率(特にNAIRU)という概念が分かっていれば実現できるし,海外にも弱インフレ安定国はたくさんある.

 

上記を述べても,インフレの爆発を危惧する声が止まないようだ.日本人には慎重な人が多いのだろう.そこで今回は,心配の理由について分析していきたい.正しい理解のためには『現在の日本円の種類』を理解することが必要である.

先に結論を言う.多くの日本人は「日本円=商品貨幣」だと思い込んでいるために,上記のMMTの批判3.が正しいと思うのだろう.この意見自体は別にこのブログが初ではなく,中野氏の著書を始めとして,色々な所で指摘されている[1,2].そこで,以下ではそれが誤解であることを頑張って説明してみよう.

[1] 中野剛志「奇跡の経済教室【基礎知識編】」 

[2] 三橋貴明氏の普段の主張

 

【現代の2種類の貨幣】

現在,貨幣として認識されるものは2種類ある.「商品貨幣」 と「信用貨幣」である.

 

商品貨幣とは,金本位制時代を例にとれば,「金(きん)との交換価値」を数値化したものであり,現代ではビットコイン[1]などが相当する.

商品貨幣は以下の性質を持つ.

  1. 発行量は有限性がある(金(きん)やビットコインは無限には生成できない)
  2. 通貨発行権は曖昧である(政府の権力に関係なく貨幣を作れる)
  3. お金の価値は「みんなこのお金を使うだろう」というような『信認』の概念から生まれてくる.

1については,使用者がある程度以上増えてくると希少価値が増大し,デフレのリスクがある[1].

2については,貨幣の乱造などが起こると,本位である実体(金など)に対して相対量が著しく変化するため,インフレのリスクも持つ.

1,2を合わせて,商品貨幣は数量の希少性に対して価値が激しく変化する性質を持つ.これは一般的な感覚とよく一致する.

3については,『ある種類のお金(あるは債権でもいい)の数が急激に増大すると,お金自体に対する信用がなくなってしまい,価値が暴落する』という,池上彰氏が折に触れて話す説明とピッタリ合う性質である.要するに,「そのお金は,みんなが実物交換価値があると信じているから価値があるんだ(共同幻想説)」という事である.あくまで共同幻想なので,氏の言う通り使用者間の信頼関係の変化に応じて暴落しやすい.

 

一方信用貨幣とは,「持ち主に貨幣価値分だけの利益(他人からの奉仕)をもたらすことが保証されている」ような貨幣の事である.例えば,「あるチケットの枚数分だけ、映画が見れる」というようなものである.ここによれば,貨幣と負債(=貨幣を持つものに対する奉仕の義務)は表裏一体であるとされる.

信用貨幣論は「相場」という考え方については商品貨幣論と大きく矛盾しない.しかし,数量の有限性は商品貨幣論とは異なり,返済(信用に対する報い)が揺らがない範囲では数量の無限性がある.また,「信用」の源泉が何なのかについては(つまり,誰が信用を担保するか)については何も言っていない.

MMTは,その信用の源泉を国に求めた.つまり,現在の貨幣を『国』が信用保証する信用貨幣(国定信用貨幣)であるとした.貨幣のもたらす利益とは税金を収めるのに使える事(納税手段になる事)だとされている[1,3].裏を返せば,日本円は日本国から課される税金をちゃんと払えるために(あるいは,原則的に日本円でしか納税できないために),価値があるのだとされている.日本円を全く持ってないと徴税期に逮捕勾留され,その事が日本円の価値を保証している事になる.故に,国家権力に従わなければならない人々はみな,日本円に対して等しく価値を見出すのである.商品貨幣における共同幻想などの曖昧な基準ではなく,国定信用貨幣の絶対価値は免罪機能なので激しくは動かない.通貨発行権を至上の物としつつ(国定貨幣),相対価値は古典的な相場の論理で決まる.

[3] Wray(レイ)の著書 

 

イングランド銀行によれば,(日本円も含めて)世界中で現在使われている通貨は信用貨幣であるという[4].商品貨幣が公に使われている国家はない.EUは信用貨幣を使用しているにも関わらず通貨発行権がないが,アメリカや日本等は通貨発行権も持っている.

[4] イングランド銀行四季報

 

【商品貨幣と国定信用貨幣の比較】

国定信用貨幣の説明から分かるように,日本円のパワーの源は,日本国の権力の強さ(特に警察権力や武力,あるいは国家の持続性,国民の持つ財産,人的資源)に対する信頼であると言える.この信頼は確かに無限に強く[5],商品貨幣の性質3(共同幻想)のようなあまりにも脆い信頼とはかけ離れている.ここまでの話に異論を挟む人は居ないだろう.だから内戦やテロで国家への不信任でも起きない限り,日本円の絶対価値が暴落するとは考えにくい

[5] 日本は世界トップの債権国でしかも健全財政であるから,信頼も大きい.ドル,ユーロ周りの不安が起こると決まって日本円が買われるのもそのためである.科学技術や人口の多さ,国土の大きさも信用の源泉である.つまり,少子高齢化は間違いなく国家の信用を毀損していく効果がある.

 

次に,日本円の相対価値(数量と価値の関係)についても考えてみよう.信用貨幣は『信用創造』からも分かるように,基本的に数量の上限はない.というより,お金の実体が無い.銀行は貸し出す相手を見て,不良債権にならなそうだと判断すればいつでもお金を貸すことができる[5].

[5] 銀行が日銀にもつ預金量は貸出上限には原則影響しない.但し,現金の引き出しだけは気をつける必要があり,そのために金庫を管理している.

 

「だったら,国債を発行しつづけてお金を無限に増やせば,いつか絶対インフレになるじゃないか!だって,お金の量が増えると,希少価値が下がるだろう?お金の価値が低くなって,物価が相対的に高くなるのがインフレのはずだろ」

 

と思う人が多いと思うし,国定信用貨幣は信用貨幣でもあるので、インフレするのは事実である.だが先述の通り,日本円(=国定信用貨幣)は『商品貨幣論』のような急激な信用不安は起こりえないので,お金の価値の暴落=物価の急激な上昇=ハイパーインフレはありえない.絶対価値(信用)と相対価値(相場)は完全に分けて考える必要がある.

 

相対価値(相場)については,仮に国債発行で貨幣の価値が時間と共に低下しても,それはあくまで貨幣の量=国債発行額に依存しているのだから,発行量に対して連続的に推移する(需給バランスを急激に壊す効果はない).故に,国債を今までの100倍量を一度に発行するとか,モノが急激に失われるとかでない限り急激なインフレはありえない.

 

まとめると,日本円は国定信用貨幣なので,

 

お金の絶対価値の保証先=国の徴税機能=国の軍事力&警察権力

 

が成り立つので,お金の信頼度が国力と同じくらいに高く,故に国債を発行しても信用の暴落がありえない.この事実はMMT全体の基盤となっている(だから無限に国債を借り換えることもできる=通貨発行権.暴落の危険があるのはあくまで商品貨幣または通貨発行権がない場合である.

さらに,相対価値をモノの量で決まるから,モノの量が一定であれば,急激なインフレは起きない.故に日本でインフレ・ターゲットを行うのは現実的であり,それは他の先進国と同様である.

 

もちろん,戦争や災害などが起これば急激に物不足になるので,インフレ率30%級が発生しうる.だがそれはあくまで外因性のインフレでMMTとは全く関係のない事だし,東日本大震災でも(元がデフレだったという事もあるが)インフレは起きなかった.また,日本国はインフレ退治は得意(消費増税等)なので,デフレ時からハイパーインフレを心配する事は完全に杞憂であると言える.

 

なお,インフレ状態をずっと続けることで,どうしてもお金の「額面」は変わっていく.これが会計上処理面倒になってきたらデノミでもすれば良い.年金システムを維持するのであれば、マクロ経済スライドのシステムを洗練させる必要はあるが.